日ロ首脳会談の成果とメディアの薄っぺらな報道

朝日新聞等の一部メディアは1月22日に行われた日ロ首脳会談の結果について失敗だったと報じている。

そして、これら一部メディアは14日の外相会談におけるラブロフ外相の一見強硬論と受け取れる発言などを理由に北方領土問題が暗礁に乗り上げたとも報じている。だが、それはフェイクニュースであり、よくよく事実を見れば、着実に領土交渉は水面下で進んでいることが分かる。

●ロシア国内の世論を説得するための強硬論

安倍総理の訪ロの直前、日ロ外相会談が開催された。ラブロフ外相の強硬姿勢は今回だけに限らず、前回の会談でも目立っていた。
ラブロフ外相が日本に対して強硬論を主張するには理由がある。ロシア国内で北方領土返還について反対の声が上がっており、それを説得するために強硬論を主張しているのだ。

元外務省主任分析官でロシア専門家の佐藤優氏も以下のように語っている。

 12月7日、ロシアのラブロフ外相が<訪問先のイタリア・ミラノで記者会見し、日本との北方領土を巡る平和条約交渉について、「日本が第2次世界大戦の結果を認めなければ、一切議論できない」と述べた>(12月7日「読売新聞」電子版)。この発言は強硬論のように聞こえるが、そうではない。ロシアは本気で歯舞群島と色丹島を日本に引き渡す説得を国民に対して始めたのだ。

ロシアとしては、国際約束で合法的に移転した領土のうち、歯舞群島と色丹島を日本に贈与するという論理で国内を説得しようとしているのだ


引用元 スポーツ報知 【佐藤優コラム】ラブロフ露外相発言の真意

実際、ロシアでは、安倍総理が2島+α返還論で交渉を動かしてから、返還に反対するデモが行われている。このデモは、極右、中道、極左までのありとあらゆる勢力が参加している。これは、ロシア国内で、北方領土返還が現実のものと受け止められていることの何よりの証明である。まさに、北方領土返還が迫っているのである。

ロシアの首都モスクワで、日本への北方領土返還に関する協議の中止を求め抗議デモを行う人々(2019年1月20日)

他方で、ロシア政府は、このような国民を説得する必要性が生じている。だから、ラブロフ外相はこのデモに代表される北方領土返還に反対の人々を説得するために強硬論を意図的に主張しているというわけだ。

換言すれば、それ以外にラブロフ外相の突然の「ちゃぶ台返し」の説明がつかない。日ロ経済協力はまだ検討途上であり、ロシア政府が経済協力だけを引き出し、また日米離間を目的として裏切るのであれば、タイミングが早すぎる。

何事にも順序はある。日本には日本の事情があり、ロシアにはロシアの事情がある。日本の事情だけを前提に、ロシア側の態度の理由を推量するのは愚の骨頂である。日本の一部メディアではラブロフ外相の強硬姿勢だけに注目し、北方領土返還は絶望的と報じているが、領土問題の解決には両国民の納得いく形で納めていくのが理想的で、しこりを残してはいけない。

ラブロフ外相はそういった国民感情をひとまず抑え、国民に聞く耳を持たせる為に強硬論を意図的に吐いているのだ。それ以外に、このタイミングでの強硬論の説明はつかない。

●読み解くプーチン氏の発言

共同記者会見に臨む安倍総理とプーチン大統領

プーチン大統領はラブロフ外相と違い、日ロ首脳会談で強硬論は主張しなかった。会談の冒頭で、強硬論どころか両首脳の親密さを表す発言がプーチン大統領からあった。

プーチン氏は安倍首相に対し「君に会えて本当にうれしい」と親しい友人などに用いる「トィ(君)」を使い、安倍首相を歓迎。また、通信社レグヌムによると、プーチン氏は安倍首相を自らの執務室に招き入れ約5分間案内した。プーチン氏が海外の首脳に執務室を見せるのは異例で、25回目となる首脳会談を前に親密さを演出したが、一方で、プーチン氏は会談にまた遅刻し、会談は予定より40分以上遅れて始まった。

引用元 平和条約締結、結局は世論次第 安倍首相に「君」と呼びかけもまた遅刻

プーチン大統領は安倍総理を「トィ」と呼び、安倍総理を歓迎した。この「トィ」は「君」という意味で、親しい友人に使う。

この表現を見れば安倍総理とプーチン大統領との信頼関係は強固だと断言できる。外交の場では、全ての行動がメッセージだ。何故、プーチン大統領がこの言葉を公の場で使ったのかは明白で、安倍総理に必ず進めていこうという保証をしたかったからである。

プーチン大統領が安倍総理を執務室に案内したのも安倍総理との間に信頼関係が成り立っているからである。

因みに日本のメディアはこの記事にもあるようにプーチン大統領が安倍総理との会談で幾度も遅刻していることからも関係を疑問視している。しかしプーチン大統領の遅刻は安倍総理との会談に限ったことでなく、トランプ大統領との会談にも遅刻している。メルケル首相に対しては、彼女の大嫌いな犬を連れて遅刻してくるありさまだ。

時間に厳しい日本人にとっては「遅刻=相手を舐めている」と捉えるが、プーチン大統領にとっての遅刻は常とう戦術だ。しかも、安倍総理に対しては46分の遅刻だが、ローマ法王とのバチカンでの会談には50分遅刻している。

●日ロ首脳会談で実は大きな動き

・安倍総理の事前インタビューで示された日ロ首脳の強い意志

安倍総理の書面インタビューが1月21日付のコメルサント紙に掲載された。インタビューで安倍総理は、日ロ関係は最も可能性を秘めた二国間関係であり、両国の潜在能力を完全に発揮し、協力を更に大きく前進させるためにも、平和条約の締結が不可欠だと述べた。また安倍総理は、インタビューで昨年行われた首脳会談にも触れ、プーチン大統領と2人で必ず終止符を打つ強い意志を完全に共有したとも述べた。まさに、日ロ首脳が領土問題解決への強い意志を共有していることを示したのである。では、実際の首脳会談ではどうだったか。

日ロ首脳会談(2019年1月)

・国境確定に向けた動きが!

平和条約締結問題では、両国首脳は、北方領土における共同経済活動の早期実現のために着実かつ迅速に進展させるよう事務方に指示することで一致した。2島+α返還を目指す日本にとって、共同経済活動は+αにあたる。事務方に指示することで一致したことは、明らかに前進だ。

また両国首脳は、二国間協力について、防衛当局間や国境警備当局間での交流を進めること等で一致した。これは一見、小さな一歩に見えるが、実は領土問題解決に向けて大きな一歩だ。今までなかった国境警備当局間の交流を進めるということは、返還により両国国境が移動・確定することを見据えてのことに他ならない。つまり、領土返還後に向けた実務的な協議が始まっているのである。これは冒頭の話にも結び付く。両国の世論に配慮して、目立たぬように始めているとも解釈できるということだ。

また、鈴木宗男氏は、以下のような指摘を行っている。

 プーチン大統領はシンガポールの会談では、安倍首相と1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速することを合意した。
今回は1956年宣言を基礎として平和条約交渉の加速を約束したと述べている。合意と約束では大きな違いである
引用元 1月24日(火)ムネオ日記

合意したと、実際に約束したでは、大きく異なる。確かに鈴木氏の指摘の通りだ。今回の日ロ首脳会談で成果がなかったとする報道があるが、ファクトを見れば明らかに着実な進展していることがわかる。

メディアは、プーチン大統領の「大変な作業が控えている」というワードに反応し、プーチン大統領が長期化や難航を示唆したと報じている。しかし「大変な作業が控えている」とは両国民を納得させることである。この作業に取り組んでいく意思をプーチン大統領は示したのだ。でなければ、このような発言は、わざわざしない。

北方領土問題は、今回の首脳会談で確実に一歩前進した。6月末のG20サミットで実施予定の日ロ首脳会談から目が離せない。

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