アーノルド・シュワルツェネッガー氏、ロシア国民に「無意味な戦争のために命や未来が犠牲になっている」と訴え、プーチン大統領には「あなたが、この戦争を止めることができるのです」
数々のヒット映画に出演した、俳優で政治家のアーノルド・シュワルツェネッガー氏の動画が話題となっている。
動画ではロシア人への敬意を払ったうえで、ロシア国民には「無意味な戦争のために多くの命が犠牲となっている」と訴え、プーチン大統領には「あなたがこの戦争を始めました。あなたがこの戦争を指揮しています。あなたが、この戦争を止めることができるのです」と訴えている。
I love the Russian people. That is why I have to tell you the truth. Please watch and share. pic.twitter.com/6gyVRhgpFV
— Arnold (@Schwarzenegger) March 17, 2022
毎日新聞が全文を翻訳していたので添付しておく。
ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、映画「ターミネーター」などで知られる俳優で政治家のアーノルド・シュワルツェネッガー氏(74)が17日、ロシア国民に「無意味な戦争のために命や未来が犠牲になっている」などと呼びかける9分16秒のメッセージ動画を公開した。ロシア語の字幕もつけている。ツイッターでは20万回以上、リツイートされ、再生回数も1400万回以上に上っている。
全文の日本語訳は以下の通り。
皆さん、こんにちは。時間をとってくれてありがとう。このメッセージは、親愛なるロシアの友人とウクライナで従軍しているロシア兵に届けるために、さまざまなチャンネルを通して送っています。
今日、私が皆さんにお話しするのは、世界で起きていることで、皆さんには隠されていることがあるからです。皆さんが知っておくべき、恐ろしいことです。
ただ、その厳しい現実について話す前に、私のヒーローとなったロシア人のことを話したいと思います。1961年、14歳だった私を親友がウィーンに招待してくれ、重量挙げの世界選手権を観戦しました。ユーリ・ウラソフが、世界チャンピオンのタイトルを獲得した時です。彼が人類で初めて200キログラムを頭上に持ち上げた時、私は観客席にいたのです。
友人に連れられて舞台裏に行くと、14歳の少年の目の前に、世界最強の男が立っていました。信じられませんでした。彼は握手を求めて手を差し出してきました。私はまだ少年の手です。彼の手は、私の手をのみ込むようなパワフルな手でした。でも、彼はとても優しくて、私にほほ笑んでくれました。あの日のことは決して忘れません。決して。
家に帰ってから、重量挙げを始め、自分を鼓舞するために彼の写真をベッドの上に置きました。父はその写真はやめて、ドイツ人とかオーストリア人のヒーローを探せと言いました。父は本当に怒っていて、私たちは何度も言い争いになりました。
父はロシア人が嫌いでした。第二次世界大戦での経験があるからです。彼はレニングラードで負傷しました。彼が所属していたナチス軍はそこで、素晴らしい都市と勇敢な人々に悪質な危害を加えたのです。ただ、私はその写真をベッドから下げることはしませんでした。ユーリ・ウラソフが掲げる旗がどこの(国の)ものかは重要ではなかったからです。
私とロシアのつながりは、それだけにとどまりませんでした。ボディービルや映画の撮影でロシアを訪れ、ロシアのファンに会い、むしろ関係は深まりました。そして、その旅の中で、ユーリ・ウラソフにも再会したのです。
場所は「レッドブル」(原題:Red Heat)を撮影したモスクワでした。あの映画は、赤の広場での撮影が許可された最初の米国映画なのです。私は一日中、彼と一緒に過ごしました。彼はとても思慮深く、親切で、スマートで、そして、とても優しかった。この美しいブルーのコーヒーカップをくれました。あれ以来、私は毎朝、このカップでコーヒーを飲んでいます。
なぜ、こんな話をしたかというと、私は14歳の時から、ロシアの人々に愛着と尊敬の念しか抱いてこなかったからです。ロシアの人々の強さと心は、私をいつも感動させてきました。だからこそ、ウクライナでの戦争と、そこで何が起きているのかについて、真実を語らせてほしいのです。
政府に批判的なことを聞くのは誰も好きではありません。それは分かっています。しかし、ロシアの人々の長年の友人として、私が言わなければならないことを聞いてほしいのです。
思い出してほしいのですが、私は心から懸念していることを米国民にも話したことがあります。昨年1月6日に狂気じみた群衆が連邦議会議事堂を襲撃し、政府を転覆させようとした時です。あの時のように、間違っていると思うことがあれば、声を上げなければならないのです。これは、皆さんの政府でも同じことです。
皆さんの政府は、これはウクライナを「非ナチ化」するための戦争だと言っているのは知っています。ウクライナを「非ナチ化」する? それはありえません。ウクライナはユダヤ人の大統領がいる国です。そのユダヤ人の大統領は、付け加えれば、父親(米メディアによると、祖父)の3人の兄弟が全員ナチスに殺された人なのです。ウクライナがこの戦争を始めたのではありません。民族主義者でも、ナチスでもない。
この戦争を始めたのはクレムリンにいる権力者たちなのです。ロシア国民の戦争ではありません。
聞いてください。国連では141カ国がロシアは侵略者であると投票で表明し、軍隊を直ちに撤退させるようロシアに要求しました。世界でロシアに賛成したのは4カ国だけです。これは事実です。
ウクライナでの行動によって、ロシアは世界を敵に回したのです。
ロシアによる砲撃や爆撃で市街地は壊滅状態になり、そこには小児科病院や産婦人科病院も含まれます。300万人が難民としてウクライナから逃れ、その多くは女性や子供、お年寄りです。そして、さらに多くの人々が脱出を求めています。人道危機なのです。ロシアはその残虐性から、いまや国家社会から孤立しているのです。
この戦争がロシア自体に何を及ぼすのかについても、真実は語られていません。残念ながら、何千人ものロシア人兵士が亡くなりました。彼らは、祖国を守るために戦うウクライナ人と、ウクライナ征服のために戦うロシアの指導者との板挟みで死んだのです。
多くのロシア製品が壊され、廃棄されました。ロシアの爆弾が罪なき民間人に降り注ぎ、それは世界を激怒させ、史上最も厳しい世界的な経済制裁が皆さんの国に科されました。この戦争を戦うどちらの側でも、その必要がないはずの人たちが苦しむことになるのです。
ロシア政府は国民にウソをついただけではありません。兵士にもウソをつきました。
兵士の中には、ナチスと戦うのだと言われた人もいます。ウクライナの人々が英雄のように迎えてくれると言われた人もいます。単に演習に行くのだと言われ、戦争に行くことさえ知らなかった人もいます。そして、ウクライナにいるロシア系住民を守るためだと言われた人もいます。
どれも真実ではありません。ロシア兵は、家族と国を守ろうとするウクライナ人の激しい抵抗にあっているのです。
赤ちゃんが廃虚の中から引き出されているのを見ると、今日のニュースではなく、第二次世界大戦の惨状を描いたドキュメンタリーを見ているのかと思います。
聞いてください。私の父がレニングラードに到着した時、彼は自分の政府がついたウソに熱狂していました。しかし、レニングラードを出る時、彼は“壊れて”いたのです。肉体的にも精神的にも。残りの人生を痛みとともに生きました。背中の骨折による痛み。(体内に残った)銃弾の破片による痛み。彼はその痛みでいつもあの恐ろしい時代を思い出していた。そして、彼が感じていた罪悪感による痛みです。
これを聞いているロシア兵の皆さん。皆さんは、私が話した真実の多くをすでに知っているはずです。自分の目で見てきたのですから。私は、皆さんに私の父のように“壊れて”ほしくないのです。
これは、あなたの祖父や曽祖父が戦ったような、ロシアを守るための戦争ではありません。違法な戦争なのです。あなたの命、あなたの手足、あなたの未来。世界中から非難される無意味な戦争のために、それらが犠牲になっているのです。
クレムリンにいる権力者たちに尋ねたい。自分の野心のために、なぜ若者を犠牲にするのかと。
これを聞いている兵士たちへ。1100万人のロシア人は、ウクライナと家族的なつながりがあるのを思い出してください。つまり、あなたが撃つ弾丸はすべて、兄弟や姉妹を撃つこととになるのです。爆弾や砲弾は敵に落ちるのではなく、学校や病院や家に落ちていくのです。
ロシア国民がそんなことが起きているのに気づいていないのは知っています。ですから、ロシアの人々とウクライナにいるロシア兵の皆さんは、自分が聞かされているのはプロパガンダや偽情報なのだと理解してください。真実を広めるために私の手助けをしてください。仲間のロシア人に、ウクライナで起きている人間の惨事について知らせてください。
そして、プーチン大統領へ。あなたがこの戦争を始めました。あなたがこの戦争を指揮しています。あなたが、この戦争を止めることができるのです。
最後に、ウクライナ侵攻に反対し、通りで抗議しているすべてのロシア人へのメッセージを送ります。世界はあなたの勇敢な行動を見ています。その勇気の結果に苦しんでいることも知っています。皆さんは逮捕され、投獄され、そして、殴られもしました。
皆さんは、私にとって新たに現れたヒーローです。皆さんにはユーリ・ウラソフのような強さがあります。ロシアの本当の心があります。親愛なるロシアの友人たちへ。神のご加護がありますように。【訳・隅俊之】
この動画は日本でも反響を呼んでいて、多くの人が心を打たれたようだ。