日本の農産品の海外流出、被害額は1000億円以上、東大教授「各国で品種登録する必要があるため、政府支援での登録を優先するべきだ」
中国韓国で、日本国内で開発されたブランド農産品が無断栽培され、その被害が1000億円を超えていることが報じられた。
国内で開発されたブランド農産品の種や苗の海外流出に歯止めがかからない。高級ブドウ「シャインマスカット」の中国への流出だけでも年間100億以上の損失が発生しており、イチゴやサクランボなどを含めた全体の損失額は1千億円超ともされる。政府は品種育成者の権利を管理・保護する育成者権管理機関の創設を検討するなど対策を急ぐが、流出防止の実効性の確保には課題が山積する。
日本産果物が海外で人気となる中、日本と気候が似ている中国や韓国で同名の果物が栽培される実態が数多く判明している。
例えば、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が平成18年に品種登録したシャインマスカット。昨年4月の種苗法改正で、農作物の新品種は海外への持ち出し制限を付けられるようになったが、同品種は改正前に中国に流出していた。農林水産省によると、少なくとも栽培面積は日本の約30倍の5万3千ヘクタールまで拡大しており、推計される生産量をもとに日本側に支払う品種の利用許諾料(出荷額の3%と仮定)を計算すると、損失は100億円以上になると試算する。
同省は中韓のネット通販サイトでイチゴ「紅ほっぺ」など日本で開発された名称の種苗36品種を確認しており、「通販以外の流出も含めた全体の損失額では1千億円を超える」(同省関係者)と見積もる。
流出を食い止めようと昨年に改正種苗法を施行したものの、流出防止の管理などは品種育成者に委ねられる部分も多い。予算や専門人材不足もあり、種苗の不正流出を監視する機能が働いていないのが実情だ。
そのため、農水省は令和5年度中にも、新品種の育成者権の管理・保護や流出の監視などを専任で担う機関の設立を検討。今月8日には設立に向けた中間取りまとめを公表し、他国の生産者からの許諾料収入を機関運営の原資として、一部を育成者にも還元する必要性などを指摘した。
ただ、新品種の普及のため許諾料が安価に設定されていたり、品種登録までにかかる約3年の仮保護期間中の流出への対応など、課題は多い。育成者権の管理・保護に関する専門人材や、対策への予算不足といった恒常的な問題解決の糸口も見いだせていない。
東京大学大学院の鈴木宣弘教授は「無断栽培を食い止めるには各国で品種登録する必要があるため、政府支援での登録を優先するべきだ」と、実効性ある対策の早期実施を訴える。
「農水省は令和5年度中にも、新品種の育成者権の管理・保護や流出の監視などを専任で担う機関の設立を検討」とあるが、海外への優良種苗の流出防止などを目的に行われた種苗法改正が成立したのが2020年12月2日で、主な条文の施行日は2021年4月1日及び2022年4月1日。
1 輸出先国の指定(海外持ち出し制限)[令和3年4月1日施行]
2 国内の栽培地域指定(指定地域外の栽培の制限)[令和3年4月1日施行]
3 登録品種の増殖は許諾に基づき行う[令和4年4月1日施行]
4 登録品種の表示の義務化[令和3年4月1日施行]
5 審査手数料の設定と、出願料及び登録料引き下げ[令和4年4月1日施行](参考)
種苗法改正が成立した時点で機関設立を検討し、2021年4月1日の「1 輸出先国の指定(海外持ち出し制限)」に向けて機関を設立させ、鈴木教授が指摘している各国への品種登録を積極的に支援していなければいけないはずだ。少なくとも2022年の完全施行時に設立していないのは明らかに動きが遅い。農水省の怠慢だと考える。