岩屋元防衛相「財政を無視した防衛力の増強は国民の理解を得られない」
防衛力強化のため、政府は防衛費の増額を検討している中、岩屋毅元防衛相が「財政を無視した防衛力の増強は国民の理解を得られない」「NATOが2%だから日本も2%との雑なやり方はいけない」とけん制した。
岩屋毅元防衛相は12日都内で講演し、「財政を無視した防衛力の増強は国民の理解を得られない」と強調し、その点で岸田文雄首相はぶれていないと指摘した。自民党は防衛費の対GDP比をNATO(北大西洋条約機構)基準で2%以上に引き上げる方針を選挙公約に掲げているものの、岩屋氏は「NATOが2%だから日本も2%との雑なやり方はいけない」とけん制した。
岩屋氏は防衛費ついて「金額目標に向かってどんどん買い足すことは国民の理解を得ることはできない」と述べ、同時に日本が「武力の行使を努めて抑制することによって築いた内外の信用を毀損することがあってはならない」と強調。「ある日自衛隊が攻撃的な性格の組織になるのは避ける必要がある」とした。同氏は岸田首相にも近く、元防衛相として防衛政策に影響力を持つ。
NATOに関し「欧州側加盟国の多くは欧州連合(EU)に加盟しており、EUは単一通貨ユーロの信用を守るため累積債務は対GDP比60%など厳しい財政規律を課している」と指摘。これに対して日本は債務残高がGDPの250%の水準にあることを強調し、 岸田首相が「どのような防衛力をどのくらいの予算で、財源はどうするのか、三位一体で積み上げて結論を出すだろう」と述べた。
「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が9月30日に初会合を開いた。今後、数回の会合を重ね、防衛力の抜本的な強化に向けた提言がまとめられる。(参考)岩屋氏は「財政を無視した防衛力の増強」と指摘しているが、もちろん会議の中でも財源の確保について議論されている。全く無視していない。
○ 財源については、無駄を取り除く歳出改革の取組を一層進めるとともに、現在の世代の負担が必要。ただし、負担能力に配慮しながら具体的な道筋をつけるが必要があり、持続的な経済成長実現と財政基盤確保という視点に立った検討が重要。
○ 防衛力の強化は単年度の話ではなく継続して取り組む課題。必要な財源を安定して確保していかなければならない。自分の国は自分で守るのだから、財源を安易に国債に頼るのではなく、国民全体で負担することが大変必要。
○ 有事においても経済活動や国民生活の安定を維持していくには、機動的に財政出動できるよう、一定の財政余力を平時から保持しておく必要。防衛費が恒常的な歳出であることを踏まえると、全てを国債に頼るのではなく、恒久財源についても併せて議論すべき。
○ 防衛費は恒常的なものであり、やはり財源についてはしっかりとしたものが必要であるというのが前提。
○ 国を守るのは自らの責任であるという国家としての当事者意識と、国を守るのは国民全体の仕事だという国民としての当事者意識を肝に銘じておく必要がある。防衛費の増大を国民に求めるに当たっては、国民に当事者意識を持って受け止めてもらい、財源に関しては幅広く負担してもらうことが大切。
○ 財源については、つなぎ国債は良いとしても、恒久的な財源の確保が必要。既存の歳出の削減と併せて具体的な議論が急務。
今後、議論が重ねられ、財源をどうするかがまとめられると思うが、政府はしっかり説明して国民の理解を得る努力を怠ってはならない。
また、「国民の理解を得られない」と岩屋氏は述べるが、直近の世論調査でも賛成が反対を上回っている。
・「防衛力強化に「賛成」71%、財源は「国債」43%・「増税」20%…読売世論調査」
・「防衛費の増額 「賛成」が55% NHK世論調査」
特に、NHKの調査では財源についても触れていた。
増額に賛成と答えた人に、主にどのような方法で財源を確保すべきか尋ねたところ、「ほかの予算を削る」が61%、「国債の発行」が19%、「増税」が16%でした。
このように、国民からは一定の理解を得ている。ただ、今後、政府が説明を怠ったりすれば理解は離れていくだろう。
岩屋氏は「2%の範囲なら何に使ってもいい」ということにならないように忠告していると思うのだが、自民党内から「必要なものを積み上げたら2%では足りない」という声も上がっている。反撃能力確保やサイバー分野のほかにも、弾薬不足が指摘されたり、自衛隊員の劣悪な環境が指摘されている。そういった諸々のことを改善するとなれば2%では足りないということだろう。元防衛相ならそれらのことに気付いてほしかった。残念だ。